高級魚として知られるクロマグロの産地として、京都が注目されている。近畿2府4県では、和歌山県を抜いて漁獲量は2年連続トップで、養殖も盛んだ。漁獲制限による資源回復が要因とみられ、「京まぐろ」としてブランド化し、売り出す事業者も出てきている。(京都総局 相間美菜子)
京都府舞鶴市の舞鶴地方卸売市場で2月上旬、府内各地の漁港で水揚げされた7~32キロのクロマグロ約340匹が競りにかけられた。仲買人の威勢の良い声が市場内に響き渡った。
1月には100キロを超える大型も十数匹水揚げされた。府漁業協同組合の小林雅樹・販売課長代理は「数年前から数百匹単位で水揚げされることも珍しくなくなった。今後、まだ増えるだろう」と期待する。
近畿では和歌山がクロマグロの産地として知られてきたが、近年は京都の存在感が高まっている。
京都の漁獲量は2018年度に25・9トンと和歌山を抜いて近畿でトップとなった。その後は一時、和歌山に抜かれたものの、21年度は100・6トン、22年度も61・6トンと2年連続で首位を記録した。
舞鶴産のクロマグロを長年仕入れているという「小松商店」(京都市下京区)の担当者は「脂身と赤身のバランスが良い上品な味で、舞鶴産を狙う 寿司 職人がいるほど。知る人ぞ知るおいしさだ」と魅力を語る。
京都は以前からクロマグロ漁が盛んで、1970~80年代には漁獲量が年間100トンを超える年も多かったが、90年代以降は乱獲による世界的な資源量の減少で激減していた。再び漁獲量が増えた要因には、乱獲を反省に設けられた世界的な規制の成果がある。
日米など26か国・地域が参加する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は2015年以降、各国の漁獲量を制限してきた。23年度の日本の漁獲枠は年間約1万トン。うち国が管理する沖合漁業分を除き、約5000トンについては都道府県ごとに「漁獲枠」を割り当てており、京都が65トン、和歌山は70トンとなっている。超過した場合は翌年の枠を減らす運用を続けている。
こうした取り組みの結果、クロマグロの成魚の資源量は10年の約1万トンから、20年には約6・5万トンに回復したと推計されている。全国的に漁獲高が増える中、近畿周辺では京都の伸びが目立つ。
クロマグロは沖縄近海に加え、日本海の南西部にも産卵場がある。東京大の北川貴士教授(魚類生態学)は「漁獲規制により、日本海で 孵化 して成長した個体が増えてきている。京都府沖にもマグロが集まってきているのではないか」とみている。
養殖も活発になってきており、京都府北部の伊根湾(伊根町)では穏やかな波と入り組んだ地形を生かし、07年から行われている。5~6月頃に日本海でとれたクロマグロをいけすまで運び、半年ほどかけて100キロ以上に育ててから出荷する。水温が比較的低いことから、脂が乗りながらも締まった身質になるという。
回転寿司店などを展開する大起水産(堺市)は22年度から、伊根湾の養殖クロマグロを「京まぐろ」としてすしや刺し身で売り出している。初年度は500匹、23年度は倍の1000匹を取り扱った。外国人観光客にも人気で、同社の担当者は「世界中に知ってもらい、関西の観光の目玉にしたい」と意気込む。
首都圏などにスーパーを展開する「角上魚類ホールディングス」(新潟県長岡市)も約5年前から京都の養殖マグロの刺し身や寿司を販売している。今年は初めて、正月の初競りに合わせた養殖マグロの解体ショーを約20店舗で開催、それぞれ70~90キロの大型1~2匹がほぼ完売したという。
◆クロマグロ= 太平洋や大西洋を回遊する高級魚。通称は「本マグロ」で、幼魚はヨコワとも呼ばれる。寿命は20歳以上とされ、体長は3メートル、重さは400キロを超える場合もある。2022年度の全国の漁獲量は長崎県が973トンとトップで、次いで青森県の869トン。