トークイベントで思い出を語る(右から)山崎さん、仰木さん、森さん
東京都の文京区から台東区にかけての谷中、根津、千駄木周辺地区「谷根千」。そのブームの火付け役となったタウン誌の創刊から最終刊まで、全ての編集後記をまとめた「谷根千の編集後記」(月兎(げっと)舎)が6月に出版された。同月末に文京区内で出版記念のトークイベントがあり、編集人だった3人が発行の苦労や裏話を語った。(小形佳奈)
新刊を手にする森さん(前列)、仰木さん(後列左)、山崎さん。表紙には3人の似顔絵が描かれている=いずれも文京区千駄木で
「地域雑誌谷中・根津・千駄木」は1984年10月、子どもが同じ保育園に通っていた森まゆみさん(69)と山崎範子さん(66)、森さんの妹・仰木ひろみさん(68)の3人で創刊。2009年8月の最終刊まで94号を発行した。
トークイベントは先月29日、仰木さんが管理運営する「旧安田楠雄邸」(千駄木5)で行われた。60人の聴衆を前に3人は、合わせて10人の子どもを産み育てながら雑誌発行に駆け回った25年を振り返った。
仰木さんは「ワープロがない時代。リポート用紙に横書きで原稿を書いたら、森さんに叱られた」と創刊当時のエピソードを披露。作家として活躍する森さんは「3人ともすごい貧乏で、子連れで確定申告に行って税務署の人に気の毒がられた」と語った。じゃんけんで負けて代表になったという山崎さんは「発禁になったら後ろに手が回るのは私だった」と、会場の笑いを誘った。
山崎さんは現在、三重県松阪市で暮らし、フリーの編集者として活躍。今回「編集後記」を出版する月兎舎(同県伊勢市)の吉川和之さん(62)とは、仕事を通じて知り合った。吉川さんもトークショーに登壇し「アーカイブとしても面白い」と、出版を勧めた経緯を振り返った。
同書では、取材のこぼれ話、毎度の発行遅れの言い訳、子どもの成長、街の再開発への怒りなどを書き連ねた編集後記全文に加え、3人の「その後」もつづられている。四六判256ページ、1760円。