連載<101回目からのコミックマーケット>
1975年に始まり、コロナ禍による初の中止も乗り越えて2022年夏には節目の100回目を迎えた世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」(コミケ)。
作り上げているのは、全ての参加者だ。何がこれほどまでに彼らを引き付けるのか。新たな一歩を踏み出す101回目を機に、その魅力に迫りたい。(清水祐樹)
①熱気、膨大さに驚き
ガンダム好きの記者がコミケに行ってみたら規模が大きすぎて時間が全然足りなかった
2022年12月30日、東京ビッグサイト(東京都江東区)は朝から独特の熱気に包まれていた。「走らないでください。走らないでください」。スタッフが何度も注意を促す中、大勢の来場者が早足で会場内を進む。
②コミケならではの出会い
分厚いカタログを頼りにコミケをさまよっていたら興味深いサークルと出会った
サークル名を知っていれば探しやすいが、ジャンルだけでは配置は大まかにしか分からない。掲載されたわずかな内容紹介をたよりに、当たりをつけて行ってみるしかない。
③同人活動の楽しさ
リュックは重く、財布は軽く…それでも話題作を買うためにコミケで最後尾札を持って並んだ
営利目的の商業誌と違って、自分たちの好み全開なので、異様にマニアックだったり少々過激だったり。書店に並んでいても違和感がない立派な製本もあれば、コピー用紙をとじただけの簡素なものもあり、値段もさまざまだ。
④特別な「ハレの日」
大みそかのコミケで「ここで三本締めをしないと年が越せない」と語る強者に出くわした
午後4時、場内にチャイムが鳴り、アナウンスが流れる。「これにてコミックマーケット101を終了します。次回、またお会いしましょう。良いお年を──」
①半世紀の重み
ここはサブカルの国会図書館だ…半世紀で300万冊、コミケ全同人誌が眠る倉庫に入ったら
ここはコミックマーケット準備会が管理する倉庫。約3万5000個に及ぶ段ボール箱それぞれに収められているのは、これまでコミケで頒布された全ての同人誌の見本誌だ。
②創設から第1期晴海まで(1975~86年)
学生運動の熱が冷め、コミケが始まった時代…バブル前夜にはコスプレ文化も開花
〈私たちは、「コミック・マーケット」をまんがファンがより緊密に結びつくためのひとつの試み、第一歩、そう考えています。〉
③TRC、幕張メッセ、晴海(1986~95年)
「オタク」バッシングに続き「有害コミック」騒動…コミケ存亡の危機を救ったのは
昭和天皇が崩御して元号が平成となり、「漫画の神様」手塚治虫さんが亡くなるなど大きな時代の変わり目となった89年、日本中を震撼させた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件がコミケにも影響を及ぼす。
④有明(1)(1996~2005年)
90年代後半、コミケはさらに巨大化…わいせつ、著作権など「自由と紙一重」の課題にも直面
巨大化し、認知度も高まったコミケは、「趣味の内輪のイベント」以上の存在となっていく。97年には書店委託サークルを中心に税務調査が入るなど、社会的責任が問われることも増えていった。
⑤有明(2)(2006年~)
「コミケの父」突然の死脅迫事件、五輪、コロナ禍まで…「危機のたびに団結が強まった」
「コミケのこと、頼むね」2006年9月22日、コミックマーケット準備会の米沢嘉博代表は、病床でそう告げた。肺がんを患い、急激に容体が悪化していた。
①コミックマーケット準備会
コミケは「一生続けられる部活」日本有数の巨大イベントを無償で支える驚異のボランティア組織
当日の参加者対応といった目に見える業務から、外部との調整、さまざまな安全管理、会計処理や公式記録などの裏方仕事までの全てを担う。まるで会社のようだが、あくまでもボランティア。その1人1人が「コミケが好きだから」と口をそろえる。
②印刷会社・東京ビッグサイト
コミケは「同じ仲間」「日本のお家芸」同人誌印刷会社、東京ビッグサイト担当者の熱弁を聞いた
取材したのは、印刷会社「ねこのしっぽ」。「サークル側の視点から『こんなサービスがあったら便利だよね』ということを取り入れてきた」
2022年夏コミ(C100)
『3月のライオン』作者・羽海野チカさん、コミケは「大事な灯台」23年ぶりサークル参加の思いとは
コミケ出身の人気漫画家羽海野チカさんが23年ぶりにサークル参加し、ブースでイラスト集を頒布した。多忙な中、あえて自費出版で豪華なイラスト集を制作した羽海野さんにコミケへの思いを聞いた。
2023年夏コミ(C102)
コミケ会場が緊迫!?ジャンプの元名物編集者「Dr.マシリト」も熱く語った「同人誌と商業誌」論
「同人誌のイメージは決して良くはなかった」
『ドラゴンボール』の鳥山明さんらの才能を見いだし、人気漫画家へ育て上げた鳥嶋さん。1983年の夏コミ(C24)を取材し、ジャンプで特集記事を組んだことも。その際に3人の同人作家をスカウトし…
①伝統の創作系
漫画界を支える「創作系」にとってのコミケ老舗サークル「漫画の手帖」「楽書館」の歴史は語る
「インタビュー宮崎駿」、「だから特撮大好き!8人のマンガ家にアンケート江口寿史、魔夜峰央、吾妻ひでお、高橋葉介、夢野一子、火野妖子、三鷹公一、術田久美」といった特集に、とり・みきさんや折原みとさん、ゆうきまさみさんらの漫画作品。掲載されていたのは、大手出版社の商業雑誌ではない。
②学漫
弘兼憲史さん、やくみつるさんら輩出…コミケを彩る「学漫」の名門、早稲田大学漫画研究会を訪ねてみた
園山俊二さんや東海林さだおさん、弘兼憲史さん、やくみつるさん、けらえいこさんら著名なプロ漫画家をはじめ、ゲームデザイナー堀井雄二さん、コラムニスト堀井憲一郎さんら、多彩な才能を輩出してきた名物サークルだ。
③ファンクラブ
藤子不二雄のコンビ解消から36年、今も「2人」を推し続けるサークル「ネオ・ユートピア」が語るコミケ
初期のコミックマーケットでは、萩尾望都さんらの少女漫画人気を背景に、プロ漫画家のファンクラブの存在が大きかった。次第に二次創作が主流になっていくが、今も昔ながらのファン活動を続けるサークルもある。
④二次創作
「二次創作」はコミケのシステムを変えた先駆者が振り返る「妄想の力」と「キャプテン翼」ブーム
片や同人誌即売会やファンクラブの元祖、片や定期的な二次創作の先駆けと、漫画ファン集団の活動の礎を作ってきたとも称される夫妻だ。
⑤評論系
超こだわりの「評論系」取材に600時間、その年の全アニメ映画レビューをコミケで発表でも今年は…
「背景がよくわからない作品は、しっかり調べてから見ないと感想も書けない。アニメはかなりの知識を前提とするハイコンテクストなものなので」
⑥交通系
コミケで独特の存在感、「交通島」という深き沼都営バスに魅せられた男性の「使命感」
時刻表や年鑑、車両一覧、系統別データブック、方向幕(行き先表示)のまとめ本…。果ては、カレンダーやキーホルダー、クリアファイルといったオリジナルグッズまで都営バスに関するものが盛りだくさん。「これらを作るために膨大な資料を集めている。どれも調べだすと底なしで…」
⑦ゲーム系
スマホゲーム全盛の今こそ、ゲーセンの「筐体」を探究コミケ歴14年、『ゲーメスト』元ライターの願い
出産を機に仕事を辞め、ゲーセン通いも断った。所有していた筐体も高圧電流が流れるため、子どもが触る危険性を考えて泣く泣く手放すことにした。それでも、「ゲームが好きすぎて」始めたのが…
⑧音楽系
ムソルグスキーは「破天荒」?クラシック音楽の魅力を漫画に…コミケで見つけた2人組「留守key」に聞いた
「楽曲を私たちなりにプレゼンテーションしているつもり。クラシックを知らない人からは、取り上げた作曲家について『実在の人物ですか?』と尋ねられることもあるが、まずは音楽を聴いてほしい」
⑨コスプレ
「かぐや様」「クワイエット・ゼロ」が決めポーズ!コミケの華、コスプレは人をつなぐ
2015年冬のC89では3日間の延べ登録者数が3万人近くにまで達したコスプレーヤーだが、コロナ禍を受け、21年冬(C99)では2日間で延べ約2800人にまで激減した。
①著作権前編
「著作権」大丈夫?危ない?二次創作が盛んなコミケの世界権利者側は「見て見ぬふり」をしてきたけれど
小説や音楽、美術、映画といった著作物は、著作権法で著作者の翻案権や同一性保持権(無断改変を受けない権利)などが保護されている。漫画やアニメ、ゲームも著作物に含まれており、二次創作はこれらを侵害しているのではないだろうか。
②著作権後編
トラブルなく安心して「二次創作」を…著作権者がガイドラインを示すケースも自由表現の行方はどうなる
「原作へのリスペクトは大前提」「原作者が不快に思うようなら、やめる」昨年末の冬コミ(C103)で、二次創作を手がけるサークル参加者に取材したところ、こんな声が多く聞かれた。好きな作品への愛情が感じられるのは無論だが、著作権者とのトラブルは避けたいとの思いも透けて見える。
③性表現
規制がつきもの「エロ同人」…コミケはどう向き合ってきたか自由な表現の場を守るための苦渋の歴史
一口にエロと言っても、オリジナルから二次創作まで種類は膨大。人気サークルには長蛇の列ができる。記者もいくつか読ませてもらったが、なかなか刺激的な内容もある。ここで一つ、心配事が浮かぶ。こんなに開けっ広げに頒布していていいのだろうか?
④お金の話
同人誌って儲かるの?それとも赤字?コミケで見つけた「同人の家計簿」で明かされた「お金のやりくり」
同人誌が売れまくってマンションを買った作家がいる。かつて、同人業界でまことしやかに流れた噂だ。同人誌ってそんなに儲かるの?それに税金など会計処理はどうしているのだろう。