選挙に乗じ、海外ルーツの人を排斥しようとするヘイトスピーチが近年、街頭やネット上ではびこる。市民団体は「選挙ヘイト」対策を自治体に求めるが、法が整備されておらず実効的な対応は取られていない。一方、差別を許すまいと抗議する市民たちの行動が「選挙妨害」の対象となり得る法改正を目指す動きがある。選挙ヘイトの問題とどう向き合うべきなのか。(山田雄之、安藤恭子)
「選挙運動という名目で外国人への差別と憎悪を助長するヘイトスピーチが繰り返されることが問題視されています」

東京都杉並区長選と区議補選に向け、区選管の担当者(右)にヘイト対策を講じるよう申し入れる市民団体のメンバーら=15日、東京都杉並区役所で
6月28日投票(開票は翌29日)の東京都杉並区長選と区議補選に向け、市民団体「杉並から差別をなくす会」など7団体は今月15日、区と区選挙管理委員会に選挙戦でのヘイト対策を講じるよう申し入れた際、昨今の事態をそう指摘した。
たしかに約4カ月前の埼玉県川口市長選でも、候補者たちが街頭演説で「外国人を追い出さなければ治安は守れない」「川口市は、日本人よりも(外国人の)優遇策が取られている」などと、排外主義的な主張や誤った事実を含む言説を展開。交流サイト(SNS)にも広がり、問題化した。
7団体は申し入れで、
▽杉並区のSNSなどで、差別的言動は許されないとの周知徹底
▽立候補者にヘイトスピーチ解消法などの資料を配り周知徹底し、違反する選挙公報やポスターに強い指導
▽同法に違反する言動の現場での確認や記録
▽ネット上の虚偽情報を関係機関と連携し、調査や指導
▽選挙後、ヘイト防止対策の効果を検証する会議の開催
などを要請した。

申し入れ後の集会で、選挙ヘイトへの危機感を訴える金正則さん(左)ら市民団体のメンバー=15日、東京都杉並区役所前で
この日は杉並区役所前で集会も開き、在日コリアン3世の金正則さん(71)が「候補者が票を稼ごうと、ヘイトで市民の不安をあおり、影響を受けた生活者が差別意識を起こす悪循環が起きている」と訴えた。
金さん自身、選挙ヘイトの被害者だ。3年前に日本国籍を取得し、昨年の都議選に杉並区選挙区から出馬したが、SNSで「国へ帰れ」などと誹謗(ひぼう)中傷にさらされ、街頭でも「朝鮮人じゃないか」と言われた。
ヘイト急増のきっかけは、同選挙区から都議選に出馬した新人候補の会見で、同席した埼玉県戸田市の河合悠祐市議が金さんを名指しし、「売国奴とも言うべき候補者」などと表現したことだったという。金さんは「社会で『公正』と認識されている選挙の場での発言により、市民が『差別してもいいんだ』と後押しされてしまう。各地の選挙でヘイトが街中にばらまかれ、マイノリティーは恐怖を覚えている」と指摘する。

杉並区選挙管理委員会の定例会で、申し入れを議論する委員ら=22日、杉並区役所で
区選管は22日の定例会で市民団体の申し入れを議論したが、委員らは悩ましげだった。そもそも立候補者らは憲法の「表現の自由」で、「選挙運動の自由」が保障される。ある委員は「立候補者への周知徹底はできるが、それ以上は難しい。チェックとなると、私たちの権限を越えているのが実情」とため息をつき、委員長は「人権は守らなければならないと思うが、現状で私たちにできることは少しひ弱だ」と漏らした。
区と区選管は合同で26日、申し入れに回答した。区民への周知、立候補者説明会での注意喚起は従来通り行うと説明。だがヘイトの現場での確認は、区は「困難」。ヘイトに対する調査や指導、選挙後の会議体設置について、区選管は「公職選挙法は発言内容の善悪を直接取り締まる法律ではない」「ヘイト対応など人権関連の所掌業務を行う組織ではない」などとして、応じない見解を示した。
中野区長選(6月7日投開票)を巡っても市民団体が4月、ヘイト対策の要請書を選管に出したが、担当者は「公選法も万全ではない。現場で人権侵害があっても、最前線で何かできる権限は与えられていない」などと応じた。

中野区役所と区議会=資料写真
なぜ選挙ヘイトを止められないのか。総務省に問い合わせると...
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