東京変貌〈岐路──中野サンプラザ再開発〉➀=3回連載
東京でも再開発の見直しが相次いでいる。中野区のシンボルである「中野サンプラザ」は計画が白紙になって1年余り。工費高騰で再開発が岐路に立つ中、どのように街の将来像を描くのか。31日告示、6月7日投開票の区長選を前に、問題の背景や課題を探った。

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構想から20年。ようやく東京・中野の複合施設「中野サンプラザ」の再開発が動き出す、その矢先のことだった。
「900億って…デカい数字だな」。2024年9月2日、再開発を担う大手デベロッパー野村不動産の担当者からの報告に、中野区の幹部は言葉を失った。

工費高騰で再開発の計画を見直している「中野サンプラザ」=19日、東京都中野区で(松崎浩一撮影)
総事業費が900億円増えて3500億円余りに膨らむという。
この報告の2カ月前、野村不動産などの開発業者は、総事業費を約2639億円と見込み、地上61階建て、高さ262メートルの高層ビルに建て替える事業認可を申請。2025年度中に着工し、2029年度完成を目指すとしていた。
「中野のシンボル」の再開発を巡る迷走劇の始まりだった。
工費急騰の報告から1週間余りたった9月半ば。区役所6階の区長室では、酒井直人区長と野村不動産の松尾大作社長が向かい合っていた。
「お茶も飲めない雰囲気だった」(区幹部)。張り詰めた空気の中、松尾社長が口を開いた。

当初の再開発計画のイメージ図(中野区の資料より)
「本当に今回は不測の事態でした」。工費が急騰した事情を神妙な面持ちで語り始めた。「いったん認可申請を取り下げたい」という意向に、酒井区長はただうなずくしかなかった。
両者は計画を練り直すことになった。
ところが、高層ビルを1棟から2棟のツインタワーに変える野村不動産の修正案が物議を醸す。「事業採算性を上げるため」(区幹部)として、住宅割合を当初の4割から6割に増やす修正内容に、区議会や区民から「タワマン化」などと批判が噴出した。

野村不動産が中野区に再提案したツインタワー案(区の資料より)
酒井区長が掲げる再開発の理念は「中野サンプラザのDNAを継承する施設を造る」。区議会では、この理念を引き合いに出し、区議が「6割住宅になったらDNAが残っているのか、いささか疑問だ」と追及する場面もあった。
酒井区長は記者会見で、「タワマン化」批判に「メリット・デメリットはあると思うが、悪いこととしては考えていない」と反論してみせたが、風当たりは強まるばかりだった。一部の区議からは、野村不動産などとの協定解除を迫るような意見まで飛び出た。
野村不動産とは4年間かけて事業を進めてきた。区としては、ここまできて破談は避けたい。
区も野村不動産に何度も再考を促したが、そのたびに担当者は申し訳なさそうに「それは難しい。そこを変えると採算性が合わない」と繰り返したという。
「物価もどんどん上がっている。このままでは計画が遅れるだけだ」。しびれを切らした酒井区長は2025年3月上旬、庁内の会議でこう切り出した。「一回リセットしようか」。その場にいた職員たちは一斉にうなずいた。
区は野村不動産など開発業者との協定を解除。計画は振り出しに戻った。

中野区役所(資料写真)
酒井区長は、協定解除を決めた当時の心境を「すごく葛藤があった。ただ、区民が望んでいるような施設を実現するには、ここで妥協できないという思いがあった」と振り返る。
東京新聞は野村不動産にも一連の経緯を尋ねたが、「当社としてお答えできるものはない」との回答だった。
今年3月、区は新たな計画の方向性を打ち出した。
再スタートを切ったものの工費高騰が収まる兆しは見えず、再開発のハードルは高まるばかりだ。
区議の一人は、こう指摘する。「今、再開発を進めても採算性からマンションになるのは目に見えている。慌てて答えを出さず、区民が望む施設の姿をゼロから考えたほうがいいのではないか」(足達優人)
