カラフルな浴室を生かし龍宮風呂に宇宙人がワープする物語を表現した作品と、作者のびゅんさん=いずれも文京区で
かつて下宿や旅館の街として栄えた東京都文京区本郷の歴史を伝える築120年超の旅館「鳳明(ほうめい)館本館」で、東京芸術大の学生たちが現代アート作品を制作した。歴史的な建物と若い芸術家たちの感性が融合された独特の空間が、期間限定で生み出された。(押川恵理子)
国の登録有形文化財に指定されている鳳明館本館は1898(明治31)年ごろ、下宿として建築。地上2階、地下1階の木造建築で、関東大震災や太平洋戦争の惨禍を乗り越えてきた。アートスペースではなく「東京の歴史や風土が感じられる場所」での作品制作や展示を目指していた同大の目に留まり、作品の展示が企画された。
制作に臨んだのは、油画専攻の3年生26人。6月下旬から建物を見学し、創業者の孫で鳳明館総支配人の大曽根美代子さんの話を聞きながら、歴史や作品と向き合ってきた。
「龍宮(りゅうぐう)風呂」と名付けられた浴室全体を使い、色鮮やかなタイル張りの浴室にUFOなどの絵画を組み合わせたのは、びゅんさん。さまざまな人を受け入れてきた鳳明館の歴史を元に、宇宙人まで登場する物語を描きだした。鈴宮リョウさん(22)は菊畑に由来する旧町名の「菊坂町」にちなみ、伝統の「江戸菊」の種をモチーフにした作品「タイムカプセル」を制作した。
東京芸術大の学生が制作に励んだ鳳明館本館の玄関
学生を指導する宮本武典准教授は「鳳明館の長い時間軸を踏まえ、自分と自身のアートを見つめる経験となった」と、成長に目を細める。
鳳明館の建物は、取り壊した上でマンションを建てる計画もあったが、地元の建設会社が事業を引き継ぎ、新たな使い道を検討中だという。総支配人の大曽根さんは「創業者や宿泊者らの物語が詰まっている建物に芸大生たちの新たな物語が宿った」と感謝した。展示は21日までだが、来場予約は締め切られている。