〈杉並区長選挙「混迷」の先に〉①
6月21日に告示される東京都杉並区長選挙(28日投票、29日開票)に向け、リベラル系と保守系の政治勢力が動きを活発化させている。
リベラル系政党が応援し2期目を目指す現職に対し、27年ぶりに推薦候補を立てて区政の奪還を期す自民。さらに、政党の支援を受けない候補者も掲げる政策が競合し、支持の行方は「混迷」する。早くも舌戦が熱を帯びる中、選挙戦本番が間もなく幕を開ける。(佐藤航)

(左から)杉並区長選に立候補を予定する大和田伸さん、岸本聡子さん、増田義彦さん、田中良さん=14日、杉並区で(隈崎稔樹撮影)
「2月の総選挙から、朝から晩まで毎日ずっと大和田さんと一緒でした。あまりにも一緒にいすぎて、周りの人が、私のだんなと間違ったくらいですよ」
東京都杉並区を地盤とする自民党の門寛子衆院議員は5月末、自民推薦で立候補予定の大和田伸氏(45)の決起集会で冗談めかして、そう演説した。

6月7日、岸田文雄元首相㊧から応援を受ける大和田伸さん㊨。大和田さんの隣は門寛子さん(鈴木太郎撮影)
実際、門氏のX(旧ツイッター)を見ると、ほぼ連日のように大和田氏とともに街に立ち、有権者にあいさつする様子を投稿している。
門氏は2月の衆院選で初当選を果たした直後に、「区長選まで私の戦いは終わらない」と宣言した通りの働きぶりで、まるで「代理戦争」のようだ。
大和田氏の決起集会では、高市早苗内閣の重要閣僚でもある片山さつき財務相が駆けつけ、政権与党とパイプを持つ首長の重要性を強調。リベラル系の岸本聡子区長(51)を念頭に、「今は私たちと一緒に日本を豊かにする投資戦略をやっている人じゃない。やってもらう人に代えましょうよ」と呼びかけた。
さらに、別の集会では、岸田文雄元首相も登壇。自身の元秘書が挑む区議補選の応援メッセージに続き、「大和田さんにも、お力添えをお願いしたい」と付け加えるのを忘れなかった。

杉並区役所・区議会
地元の衆院議員が街を駆け回り、現役の閣僚や首相経験者が相次いで応援に入るなど、党の全面的な支援を受ける大和田氏。幅広い層を取り込むために無所属で出馬予定だが、実際は自民色を前面に出した戦いを繰り広げる。背景には、長年にわたって区長候補を立てられなかった杉並で区政を取り戻したいという自民の強い思いがありそうだ。
自民が杉並区長選で推薦候補を立てるのは1999年以来、実に27年ぶり。ある区議は「街で区民の声を聴いていても、『なんで20年以上も候補者を擁立していないのか』といつも言われてきた」と振り返る。

前々区長の山田宏氏、前区長の田中良氏(65)と非自民でありながら、自民と親和性もある保守的な区長が続く中、対抗馬の擁立にまでは踏み切れなかった杉並の自民党。特に、田中氏は長らく杉並自民の顔だった石原伸晃・元衆院議員と近く、強いリーダーシップを評価する自民区議も少なくなかった。
転機は2022年の前回区長選だ。現職の田中氏への評価を巡って区議会の自民会派が分裂。一切の政治経験を持たず、草の根の支援で躍り出た岸本氏に区長の座を許した。
区内は、リベラルも一定の支持基盤を持つ土地柄。翌年の区議選でも岸本区長に近い区議が当選して勢力を伸ばし、自民区議は大きく議席を減らした。かつてない苦境に危機感が高まり、「会派が一つにまとまることができた」(区議)と、対決姿勢が前面に出る展開になった。

公開討論会で子育てや若者支援などについて話し合う大和田伸さん=14日、杉並区で(隈崎稔樹撮影)
ただ、党を挙げて臨む久しぶりの区長選は、決して生易しい戦いではない。
岸本区長は、「リベラルの旗手」として全国的な知名度を誇る。5月に出馬表明した田中氏は区議、都議、区長と計30年にわたって杉並で政治家を務め、地元企業などの支持は厚い。
国政では高市内閣の高支持率が続く一方、地方の首長選の結果には「高市人気」は結びついていない。都内だけでも、3月の清瀬市長選や4月の練馬区長選など、自民の推薦候補が敗れる選挙が続いた。
はたして、門氏がX上で「足りないのは知名度」と評する大和田氏が、この流れを断ち切れるのか。