テーピングをした右手の人さし指で、ぎゅっとバットを握ってみる。痛みは感じない。緊張も、不安も、焦りもない。「軽打でいい。芯に当てよう」
八回2死三塁。1点差に迫り、一打同点の場面で打順が回ってきた。ファウルで粘り、8球目。短く持ったバットを振り切ると、打球は高く上がった-。
昨年の秋、チームの4番になった。だが秋の大会は決勝で敗れ、センバツ出場を逃した。「夏は、自分が仲間を甲子園に連れて行く」。そう誓い、バットを振り込んだ。
アクシデントに見舞われたのは、大会直前の7月上旬。バント練習中に球が右手を直撃した。人さし指の爪辺りの肉がえぐれ、血がかなり出た。守備では思うように球を握れない。それでも「4番として、試合に出ないなんて選択肢はなかった」。準々決勝は代打で出場。終盤に勝ち越し適時打を放ち、チームをベスト4に導いた。
迎えた準決勝、八回のチャンス。高く上がった打球を目で追った後、うつむいて一塁へ向かった。球は二塁手のグラブに収まった。あと1点が遠い。
「みんなを甲子園に連れて行けなかった。また、か」。チームの4番として、けがに耐え、誰よりも勝利にこだわったのに、甲子園には届かなかった。あふれてくる涙を何度もぬぐい、スタンドに深く、頭を下げた。