「最後はエースのおまえだ」。監督や仲間の普段からの言葉が背中を押した。この試合2度目のマウンドに上がると、今度は相手の強力打線を抑えた。
二回までは1点を争う接戦。調子はいまひとつで、なんとか踏ん張った。三回、ついに相手打線につかまる。3連続四球から連打を浴び、7失点。仲間に後を託し、右翼の守備についた。「下位に打たれて、のまれてしまった。相手の応援が大きく聞こえた」
1-14になっても、誰に言われたわけでもなく、自分からブルペンに向かい、肩をつくった。エースとしての自覚だった。
再登板の機会は五回。反撃のためにも、良い投球内容で流れを取り戻したい。帽子を脱いで、マウンドで深く一礼。いつもと同じ動作で投球練習の5球を投げ込むと、覚悟を決めたように小さくうなずいた。
今度は走者を背負っても冷静だった。ゆったりとした間合いを保ち、リズムを崩さない。2死一塁になると、けん制で3アウト目を奪った。右手で拳を力強く握った。
その裏、勢いを取り戻した打線は長打を重ね、2点を返した。さらなる反撃を信じたが、差は縮まらず、コールド負けを喫した。
「みんなが信頼して任せてくれた。迷惑もかけたけど、最後は抑えられて、ほっとした」。涙に震える肩に、仲間がそっと手を添えた。