「ダブル台風」が首都圏などを襲い、大きな地震も各地で続く。自分の暮らす街で大災害が起きたら、自力での移動が困難な人は安全に避難できるのか──。聴覚障害がある東京都の男性が都内4区を歩き、ハザードマップだけでは分からない避難経路の危険スポットを「点検」、行政に対応を求めている。あらゆる人が混乱なく避難するには、どのような備えが必要か。(太田理英子)
「この階段を、視覚や身体の障害がある人、車いすやベビーカーを使う人が通るのは無理です」

「車いすやベビーカーの人たちには回り道の案内が必要」と説明する中園秀喜さん=東京都渋谷区で
6月上旬、市民団体で聴覚障害者のための情報バリアフリーや防災対策に取り組んできた中園秀喜さん(78)は、京王新線幡ケ谷駅(東京都渋谷区)の北側を東西に走る都道「水道道路」の脇にある急な階段を指さした。住民とみられる高齢女性がさびついた手すりにつかまり、不安げな足取りで住宅街に向かって下りていった。
水道道路と沿線の住宅街には高低差があり、水道道路のところどころに細い階段や坂道が差しかかる。中には、急勾配のところや街灯が少ない場所も。
区によると、こうした場所について、避難経路としての改修の要望は特に上がっていないという。避難時に支援が必要な住民は、事前に避難計画が作られているケースもあるとする。それでも中園さんは、初めて通る人もいるとして、「迂回(うかい)路の案内があったほうがいい。人が集中すれば、元気な人でも危険ではないか」と険しい表情を見せる。
水道道路の下をくぐり抜けるトンネルには、歩道の幅が狭い場所も。人がすれ違うのがやっとで、車いすでは通るのが難しそうだ。
中園さん自身は、聴覚障害がある。これまで、聴覚障害者に対応した火災警報設備に関する総務省消防庁の検討会にも加わった。

「車いすでは通れない」と説明する中園秀喜さん=東京都渋谷区で
2024年の能登半島地震に伴う石川県輪島市での大規模火災などを受け、「人口が集中する都内で大きな災害が起きたら、さまざまな障害がある人は街中で安全に避難できるのか」と考えるようになった。そこで首都直下地震を想定し、2025年12月中旬から43日間、自宅がある中野区とその近隣の渋谷区、新宿区、杉並区を一人で歩き回って調べた。
歩いた範囲は各区の範囲の1割にも満たないが、「行き止まり表示などがない複雑な私道」が130カ所以上、「崩落のリスクがありそうな空き家」は180カ所以上確認したという。手すりがなく、路面の補修が必要と思われる急な坂道などは4カ所あった。表面が劣化し、記されている最寄りの避難場所が読み取れない街頭の消火器も多く見つけた。

老朽化し、避難場所などの表記が読み取れなくなった消火器=東京都渋谷区で
中園さんは「ハザードマップなどでは盲点になる危険箇所で、実際に街を歩いてみないと分からなかった。障害者や高齢者にとって街中はバリアーだらけだが、元気な人にとっても災害時に混乱が起きかねないはずだ」と危ぶむ。
今月23日までに、小池百合子知事や地方議員経験者に、今回の調査結果をまとめた書面を送付。避難を想定した看板の設置や、危険な階段などの早期点検・整備といった対策を提言した。
対応は複数部署にまたがるとみられるが、「こちら特報部」の取材に、都建設局の担当者は「まだ提言書が届いているか確認できていない」と回答。中園さんは「実際に災害が起きれば、複数の問題が重なって生じてしまう」と早期の対応を求めた。
2011年の東日本大震災では、逃げ遅れなどで、障害者の死亡率が住民全体を上回る傾向がみられた。移動困難な人を想定した避難経路はどうあるべきか。
防災士の資格があり、自治体の都市計画やまちづくりに...
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