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<カジュアル美術館>聖王ルイ伝の画家(マイエ?)彩飾《『セント・オールバンズ聖書』零葉》 リュソンの画家彩飾《時祷書零葉》 国立西洋美術館

Jul 21, 2024 旅行 IDOPRESS

◆きらめく祈りの結晶

聖王ルイ伝の画家(マイエ?)彩飾《『セント・オールバンズ聖書』零葉》フランス、パリ1325-50年彩色、インク、金/獣皮紙29・6×19・9センチ内藤コレクション国立西洋美術館蔵

このA4サイズほどの獣皮紙1枚に、いったいどれだけの時間と労力が掛けられているのだろうか。聖書の一節を記した文字も、口を指さしながら礼拝するダヴィデ王の挿絵も、余白を飾る鳥やドラゴンのような生き物も、すべてが精緻で、ため息が出るほど美しい。近づくと、王冠や枠線に貼られた金箔(きんぱく)がきらめいている。かなうものなら、いつまででも眺めていたい。

印刷技術のない中世ヨーロッパで作られた聖書の中の1ページ。もちろん手書きで、相当なぜいたく品だ。元の書物にはこんなに手の込んだ獣皮紙が何百枚も綴(と)じられていたのかと思うと、気が遠くなる。

こうした写本はその美しさから、1枚ずつ切り離して鑑賞されることもあり、その一枚一枚を「零葉(れいよう)」や「リーフ」と呼ぶ。本作は写本零葉の収集家、内藤裕史さんが国立西洋美術館に寄贈した約190点の「内藤コレクション」の1作だ。本に綴じられていた時は劣化の原因となる外気や光にさらされにくかったこともあり、制作から700年近くたった今も、鮮やかな色彩が見る者を引きつける。

本作が「『セント・オールバンズ聖書』零葉」と呼ばれるのは、元の書物の革表紙にイギリスのセント・オールバンズ修道院の紋章があったからだ。革表紙は16世紀のものだが、写本自体は装飾の様式から、14世紀前半のフランス・パリで作られたと考えられている。ただし「いつからイギリスにあるのか、この修道院との関係は、といった詳細は残念ながら不明です」と同館主任研究員の中田明日佳さん。彩飾したのは「聖王ルイ伝の画家」と通称される画家だ。文字通り、仏王ルイ9世の足跡を記した書物「聖王ルイ伝」の挿絵を描いた人物で、マイエという名の画家と同一人物との説もある。

こうした写本は、もとは修道士の日々の労働の一環として修道院で作られていた。次第に修道院内では手が回らなくなり、1100年ごろから世俗の職人を雇うように。その後、パリやイタリア・ボローニャなど、大学や重要な修道院のある都市で、民間の工房が発達していったという。本作の時代には、自ら写本を作る修道院はまれになっており、本作も民間の工房で作られたようだ。

◆中世のベストセラー

リュソンの画家彩飾《時祷書零葉》フランス、パリ1405-10年頃彩色、インク、金/獣皮紙17・6×13・2センチ内藤コレクション国立西洋美術館蔵

キリスト教関連の中世の写本は聖書のほか、聖職者が日々の礼拝で唱える祈りの言葉をまとめた聖務日課書や、ミサのための聖歌集などさまざまだ。最も多く作られたのは、聖務日課書を一般信徒向けに簡略化した時祷(じとう)書で「中世のベストセラー」とも呼ばれる。

神への祈りを結晶にしたような美しい写本を前にしていると、信徒ならずとも、どこか敬虔(けいけん)な気持ちで満たされるようだった。

◆みる国立西洋美術館(東京都台東区上野公園)はJR上野駅下車徒歩1分。問い合わせはハローダイヤル=電050・5541・8600=へ。いずれも8月25日までの企画展「内藤コレクション写本-いとも優雅なる中世の小宇宙」で展示中。開館時間は午前9時半~午後5時半(金・土は午後8時、閉館の30分前までに入館)。月曜休館(8月12日は開館)。一般1700円、大学生1300円、高校生千円。学生証や障害者手帳の提示で、中学生以下、障害者および付き添い1人は無料。

文・林朋実

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