「ひと息つきたいな」。街中でそう思ったとき、どうしていますか。喫茶店や図書館に入ったり、はたまた地べたに座ったり…。街は誰がどんなふうに過ごすと想定して、つくられているのか。ちょっと立ち止まって、身近な場所を見回してみませんか?今回スポットを当てるのは「ベンチ」です。(森合正範、写真も)

ビルの合間の通路に置かれたベンチが憩いの場に変わった=東京都港区の田町駅前で
平日、午前9時すぎ。JR田町駅(東京都港区)前のビルとビルの合間、ベンチに座っている人が数人いた。スマートフォンを見ている男性、コーヒーを手にしている2人組の女性も。
その中の1人、パソコンを開いている50代男性に声をかけると、「晴れて気持ちのいい日は、ここに座ってメールチェックや簡単な仕事もしています」。
時はさかのぼること、コロナ禍が残る2021年。駅周辺で数棟のビルを所有管理する株式会社田町ビル営業統括部の曽根慶則さん(46)は考えた。「殺風景な田町駅前に活気をもたらすことはできないか」

「ベンチが活気をもたらした」と話す田町ビル営業統括部の曽根慶則さん=東京都港区の田町駅前で
田町駅は通勤通学で人の行き来は多いが、食事をするなど長時間滞在する人は少なかった。そこで駅周辺に「人がとどまる風景」をつくりたかった。
駅前の田町センタービルは1994年完成で、その隣の新田町ビルは1972年に建てられた老舗ビル。その間にある幅約5メートル、長さ80メートル弱の細長い通路にベンチを置いたらどうなるのか。
曽根さんは、公共空間の設計やプロデュースを手がける「グランドレベル」代表の田中元子さん(51)に連絡した。田中さんはベンチを置くことで街がどう変わるか、社会実験で確かめているところだった。
ただ不安がよぎった。「もしトラブルが起こったら…」。若者が長居したら、夜寝る人が出てきたら、ごみを置きっぱなしにされたら清掃が大変になるかもしれない…。
2021年4月、田中さんが設計した、座面が深く仕切りのない3人掛けの赤いベンチを試しに数台置いた。

すると、まるでずっとそこにベンチがあったかのように、通りがかりの人たちが自然に腰を下ろした。
ベビーカーを押す母親がもう1人の子どもをベンチに座らせ、お菓子をあげていた。ビル1階にコーヒーチェーン店があり、カップを手に学...
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